「ちゃんと会社行ってるよ!」そう言ってオフィスに消える我が子や友人。
でも、もしかしたら彼らは「働くふり」をしているだけかもしれません。
中国で今、若者を中心にひっそりと利用が広がる「出勤偽装会社(假装上班公司)」。
一見すると奇妙なサービスですが、
その背景には中国が抱える深刻な社会問題と、私たちの想像を超える人々の心理が隠されています。
今回は、この「出勤偽装会社」がなぜこれほどまでに利用されているのか、
その実態と日本の状況を交えて深掘りしていきます。
なぜ「出勤偽装会社」が必要なのか?若者の悲痛な叫び
中国の若年層(16~24歳)の失業率は、なんと15%超えとも言われる深刻な状況です。
大学を卒業しても仕事が見つからない「就職氷河期」の真っただ中。
1. 「面子」が命!失業は家族の恥?
中国社会では「面子(メンツ)」が非常に重要視されるそうです。
失業していることは、自分だけでなく家族の面子を潰す行為だと考えられがちだそう。
親や親戚からの期待、社会的な評価を保つために、「仕事をしているように見せかける」必要があるのです。
-
衝撃の実態! ある利用者は、1日約1030円でオフィススペースを借り、家族に送るために「職場の写真」を撮るのだとか。
-
偽の在職証明書を発行してもらうケースまで報告されています。
2. 生活リズム崩壊を防げ!孤立からの脱却
家に引きこもりがちになると、生活リズムが乱れ、孤独感やストレスが募ります。
「出勤偽装会社」は、机、Wi-Fi、エアコン、さらには食事提供まで行うオフィス環境を提供。
ここで「働く日常」を再現することで、失業中でも規律ある生活を送り、心理的な安定を保とうとするのです。
-
カフェじゃダメなの? カフェや図書館と違い、同じ境遇の人々が集まるため、情報交換やネットワーキングの場にもなっています。
-
これは単なる作業スペース以上の価値があると言えるでしょう。
3. フリーランスや副業の救世主?低コストな秘密基地
失業者だけでなく、フリーランサーや副業を持つ人々もこのサービスを利用しています。
都市部のシェアオフィスよりも安価(1日数百円程度)で、
集中できる環境が手に入るため、「低コストなワークスペース」としても重宝されているのです。
-
まさかの農場オフィス!? 北京郊外には、農場の中にオフィススペースを設けたユニークな「働くふり会社」も。
-
農作業体験もできるというから驚きです。
日本に「出勤偽装会社」はあるのか?類似サービスを徹底比較!
結論から言うと、現在のところ、中国と全く同じ形態のサービスは確認されていません。
その理由としては、主に以下の点が挙げられます。
-
失業率の違い: 日本の若年層失業率は約4~5%程度と、中国に比べてはるかに低い水準です。
-
文化的な背景: 日本にも「世間体」はありますが、中国ほど「面子」を強く意識する社会的圧力が一般的ではありません。
-
既存の代替施設: 日本にはコワーキングスペース、カフェ、図書館など、低コストで作業できる場所が豊富にあります。
しかし、「失業を隠したい」「低コストで働く場所が欲しい」といったニーズ自体は日本にも存在します。
日本における「働くふり」の代替サービス
-
コワーキングスペースやレンタルオフィス: WeWorkなどのシェアオフィスは、フリーランスや就職活動中の人が「オフィス環境」を利用する場所として人気です。月額1~3万円程度で利用でき、体裁を整える目的で使われることも。
-
ネットカフェやカプセルホテル: 失業中や住居がない人が、一時的に生活リズムを保ったり、作業場所として利用するケースが見られます。
-
カフェや公共施設: リモートワークの普及により、スターバックスなどのカフェや無料Wi-Fiのある公共施設で作業する人が増えています。
もし日本で「出勤偽装会社」ができたら?未来を考察
現在のところ、日本での需要は限定的と考えられますが、もし将来的に以下のような状況になれば、「出勤偽装会社」に似たサービスが日本でも生まれる可能性はゼロではありません。
-
経済状況の悪化: 日本の失業率が大幅に上昇し、経済不況が深刻化した場合。
-
Z世代の価値観の変化: 「世間体」よりも自己実現を重視する一方で、親世代からのプレッシャーなどから「失業を隠したい」というニーズが強まる可能性。
-
ユニークなサービス文化: 「レンタル家族」のように、日本のニッチな需要に応えるサービスが登場しやすい土壌があるため、実験的に始まる可能性も。
まとめ:背景にあるのは根深い問題
中国の「出勤偽装会社」は、単なる奇妙なサービスではなく、深刻な若年層の失業問題と、中国社会に根強く残る「面子」の文化が絡み合った結果生まれたものです。
心理的な安定、生活リズムの維持、そしてコミュニティ形成といった多面的な価値を提供する一方で、この現象は中国が抱える雇用の危機を浮き彫りにしています。
日本に同じ形態のサービスは今のところありませんが、この「出勤偽装会社」の存在は、
社会のひずみが形を変えて人々の生活に影響を与えていることを教えてくれる、非常に示唆に富んだ事例と言えるでしょう。